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ヨーロッパコース 教員

尹 慧瑛(ユン ヘヨン)

英語表記 YOON Haeyoung
職名 教授
研究者情報 研究者データベース

学生へのメッセージ

 「グローバル」と「地域」の関係は、単に相互が関連しあい、影響を及ぼしあっているという以上に、より複雑で重層的なものとなっています。それは、差異があらゆる境界を超えてごく身近なところに存在し、そのことが地域をいっそう豊かな多様性へ導くと同時に、既存の枠組みや概念にたえず変容を迫っているような状況であると言えます。そのような差異と共生のダイナミズムに積極的に関わろうとするなら、自らの視点や方法をたえず更新し、研ぎ澄ませていなくてはなりません。例えば、「自明性を問う」ということ。今まで当たり前だと思っていたことが、実は国家や制度やさまざまな権力関係によって保証されたものであること、言い換えれば、その「自明さ」が、別の異なる立場に置かれた人びとに対する暴力として作用しうると自覚することです。あるいは、想像力を養い、鍛えること。そのようにして人は初めて、自分と自分を取り巻く社会との関係を再考してみることが可能になります。
 現代世界におけるさまざまな事象をどのように読み解き、自分なりの視角を提示し、場合によっては何らかの実践的な解決策を見出すのか。既存のディシプリンにおける研究方法の積み重ねを基礎としながらも、柔軟かつ創造性に富んだ発想やセンスを養い、それらを自分の言葉で語ることのできる訓練が求められます。何より学生の皆さんに伝えたいのは、遠く離れた地域やそこに暮らす人びとをめぐる問題が、決して無関係の他人事ではなく、自らの問題に分け入っていくための方法を授けてくれるものであるということです。地域を知る醍醐味のひとつは、まさにその点にあると言えるのではないでしょうか。
 複数の問いや関心が、何かをきっかけに互いにつながり、やがては独自の自己表現や社会を動かす力になっていくことがあります。そのための具体的な手がかりを皆さんとともに学び、実践していきたいと思っています。

プロフィール(経歴、趣味、等)

 東京で生まれ育った在日コリアン3世です。1988~1989年に英国サリー州に在住中、ヨーロッパのさまざまな国を旅行しました。紛争の最中にあった北アイルランドを初めて訪れたのもこの時です。大学では「母国語」である朝鮮語を外国語のように学んだり、ソウルに短期語学留学したりと、自身のアイデンティティにとって貴重な経験をしました。卒業論文で北アイルランド紛争をとりあげ、大学院に進学してからは、資料収集やフィールドワークのため、ベルファスト、ダブリン、ロンドンをたびたび訪れました。特に、ベルファストでは、紛争の傷跡をあちこちに残しながらも街全体が新しい関係性を創り出そうとしている様子を間近に見ることができ、暴力や和解について考えるさまざまな視点を与えられたと思っています。街と言えば、大学のキャンパスが位置する京都市も、とても興味深いところだと感じています。住み慣れた東京を離れて、日本国内では初めての「移住」になりますが、この場所から日本と世界の諸地域について考えていければと思っています。

研究内容

卒業論文のテーマに選んで以来、北アイルランドという地域を研究対象としてきました。北アイルランドは、植民地支配の歴史とその矛盾が凝縮された<場>、さらには紛争によって社会が著しく分断された<場>として位置づけることができます。そこでの暴力と分断の克服、歴史認識、和解をめぐる困難さは、隣接するアイルランド共和国や連合王国の諸地域との結びつきのなかで、あらたな局面を迎えつつあります。近年では、このブリテン-アイルランド関係を多面的かつ重層的にとらえ直すことを研究の主軸としています。また、ブレグジットでも露わになった、急増する移民への反発や、社会統合とナショナル・アイデンティティの再考は、イギリスやアイルランドのみならず、ヨーロッパ全体が直面している課題でもあります。これらはつまるところ、「社会の共有」は果たして可能なのかというグローバルな問いをもたらしますが、日本の現状に私たちがどう主体的に関わっていくのかも常に立ち返るべき課題だと考えています。

主要業績

単著
  • 『暴力と和解のあいだ―北アイルランド紛争を生きる人びと』法政大学出版局、2007年。
  • 「在英アイリッシュに出会うとき」『抗路』第7号、34-45頁、2020年。
  • 「ブレグジットと南北アイルランド国境問題―英愛関係の試練」『歴史学研究』第990号、2019年、74-80頁。
共著
  • 長谷部美佳、 受田宏之、青山亨編『多文化社会読本―多様なる世界、多様なる日本』東京外国語大学出版会、2016年。
    (担当:「大英帝国」から「マルチ・カルチュラル・ブリテン」へ)
  • 後藤浩子編『アイルランドの経験―植民・ナショナリズム・国際統合』法政大学出版局、2009年。
    (担当:「排除と包摂のはざまで―北アイルランドという地政学的空間」)
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