李 珠姫(イ ジュヒ)
| 英語表記 | LEE Juhee |
|---|---|
| 職名 | 助教 |
| 研究者情報 | 研究者データベース |
学生へのメッセージ
大学は、それまでには接したことがあまりなかったような様々な知識を、人との交流を通じて幅広く学ぶことができる場所だと思います。同志社大学には、ひとつの分野を深く考究されてきた先生方と、個性溢れる学生の仲間がたくさんいると思いますので、自分にとって特に関心があることをとことん掘り下げてみるとともに、なるべく多様な分野の知識に触れ、新しい経験にも恐れずに挑戦してみることで、今後の人生を生きるうえで参照となる視点を多角的に育んでいただきたいです。
気候変動とAI技術の進化に併せ、最近は国際的な緊張関係も高まっており、「不確実性の時代」を生きていると感じることが多くなりました。そこで、この時代を生きるうえで特に役に立つのが、過去の歴史を世界的な視点から学ぶことではないかと考えます。私は第二次世界大戦以前の日本と朝鮮の文学を主に勉強してきましたが、現在の世界情勢を1930年代に比べてみることが最近はとても多いです。当時を「転換期」として認識していた人々が、どのようにその時代を感じ、未来を予想していたのかを現時点から読んで、驚き、それが「当たって」いたかどうかを考えてみたりもします。私が「当たって」いたと思う人たちは、敵に勝ったり、自分だけが生き残るための「情報」は持っていなかったもしれませんが、他者の苦しみに感応し、それを社会の構造と結び付けて考える「知性」を持っていました。
過去の歴史のうえに築かれた地点に自分が立っていて、世界のどこかにいる人たちと繋がっており、その人たちが自然から得たもの、生産したものによって生きているという感覚を具体化してみることが、「不確実性の時代」に希望のある共生社会を構想する力になると思います。
プロフィール(経歴、趣味、等)
小説を読むのが好きで、大学では韓国文学と語学を第一専攻とし、第二専攻で日本語日本文学を学びました。2012年に文部科学省国費留学生制度で日本に来て、学部の頃交換留学で来ていた筑波大学の大学院に入学しました。大学院では研究に一所懸命取り組んでいましたが、書いていた博士論文がなかなか終わらず、在籍年限を超えてついに満期退学となりました。ちょうどコロナ禍で、所属がないまま部屋に閉じこもって苦闘した時期が二年ほどありました。今ではその時間が私自身の「閾値」となり、教育や研究に向き合う私を支えてくれています。
2022年に博士学位を取得後、早稲田大学文学学術院の客員次席研究員を経て同大学の高等研究所に採用され、2023年から講師として三年間勤めました。高等研究所は研究者の育成のために設立された場所で、日本文化と文学を主に教えながら研究に専念する日々を送ることができました。非常勤講師として勤めていた東京理科大学と筑波大学ではコリア語も教えました。科目名が「朝鮮語」と「韓国語」にそれぞれ分かれていました。
同志社では初修外国語科目の「コリア語」を主に担当します。私にとって母語である言葉を外国語として教えるために、一旦〈外〉に立ってその規則や原理について考えることがとても楽しいです。初修外国語学習を通して皆さんが世界人として成長できるよう、私自身も常に学びを深め、その歩みを支えていきたいと考えています。
研究内容
죽는 날까지 하늘을 우러러/한 점 부끄럼이 없기를,/잎새에 이는 바람에도/나는 괴로워했다.
「死ぬ日まで空を仰ぎ/一点の恥辱なきことを、/葉あいにそよぐ風にも/わたしは心痛んだ。」(伊吹郷訳)
これは朝鮮の詩人・尹東柱が書いた「序詩」の一節です。彼は同志社大学に在学していた1943年に治安維持法違反の容疑で警察に逮捕され、福岡の刑務所で獄死しました。治安維持法は、共産主義と無政府主義運動を取り締まるために1925年に作られた法律です。「国体」を変革し、または私有財産制度を否認する目的で結社を組織し、または加入することを禁止するという条項に基づいて植民地独立運動も「国体」変革の罪に抵触するものと解釈されました。同志社の校庭には尹東柱の詩碑があります。
私は日本文学を中心に、1930年代にこの治安維持法の運用の過程で誕生した転向制度と文学の関係を研究しています。「転向」とは、思想や立場を変えることを意味する用語で、治安維持法による検挙人数が増えた1930年代初頭に、思想の変化を表明して運動から離れる意思を申し出ることを条件に思想犯を釈放したり、刑罰を軽減したりする制度が登場しました。そこでこの思想の変化のこと(もしくはそれを司法当局に申し出ること)を「転向」と呼んでいたのです。左翼の文化運動に携わった嫌疑で逮捕され、この時期に転向して釈放された作家たちは、創作を再開する際、主人公が作者自身であるような「私小説」の形式で小説を書いて発表しました。私はこの「私小説」が小説の虚構性を前提とする自己告白の文学である点に着目して、その形式が転向制度のもとで行われる思想の告白が孕んでいる、虚構性や演技的性格を映し出す鏡のような装置として用いられていた可能性を作品の読解を通じて考察してきました。
最近は研究の領域を広げ、植民地朝鮮において書かれた労働小説や、転向をテーマにした小説なども研究しています。今後の研究としては、植民地解放後、韓国の軍事独裁政権下で生産された文化テクストを、植民地時代との連続性を念頭に置いて分析してみたいと考えています。
主要業績
【日本文学】
- 「鏡のドラマトゥルギー:転向小説「白夜」(村山知義)における女性登場人物の言葉」、『日本近代文学』第98集、2018年5月、pp.178-193.
- ‘A Proletarian Writer in the Showcase Window: The Shifting Representation of “the Masses” in Sata Ineko’s Kurenai,’ Tenkō: Cultures of Political Conversion in Transwar Japan, Irena Hayter, George T. Sipos, Mark Williams eds., London and New York: Routledge, 2021, pp.198-222.
【朝鮮・韓国文学】
- 「米と綿、そして移動する無産者たち: 姜敬愛『人間問題』に見る1930年代植民地朝鮮の経済と労働者階級の形成」、『越境する革命 : 『吼えろ、中国!』と東アジアの左翼芸術運動』村田裕和・越野剛・田村容子・和田崇編、森話社、2025年、pp.253-273.
- 「書けない小説家、小説を書く: 金南天「灯火」における書簡体形式の羅列と「自己犠牲者化」の戦略」、『交響するテクスト:文学・メディア・翻訳』杉本章吾・江口真規編、水声社、2025年、pp.355-378.
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