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ヨーロッパコース 教員

見原 礼子(ミハラ レイコ)

英語表記 Reiko MIHARA
職名 准教授
研究者情報 研究者データベース

学生へのメッセージ

 人生において、「苦しみ」は誰にとっても免れ得ない経験のひとつです。自然災害、貧困、家庭内暴力、犯罪、疾患、紛争や強制移住、飢餓など、苦しみを生み出す原因は様々ですが、医療人類学者のクラインマンらは、こうした苦しみはすべて社会構造の一部であり、その意味で深く社会的なもの、すなわち「社会的苦しみ(social suffering)」(クラインマン他, 2011)であると論じました。
 「苦しみ」が社会的なものであるということは、それが個別的でありながら同時に集団的であり、ローカルなものでありながら同時にグローバルなものでもあるということを意味しています。つまり私たちは、遠く離れた世界に生きる難民や飢餓に苦しむ子どもの「苦しみ」とも、家庭内暴力に遭う近所の隣人の「苦しみ」とも、無関係ではいられないということです。
 そのような「社会的苦しみ」に、研究を通じてかかわっていく方途は学問領域により多種多様です。例えば、医学や薬学は医療的介入や臨床研究を通じて「苦しみ」を軽減させる方法を編み出してきました。心理学は心的外傷に寄り添う方法論と実践を発展させてきました。工学は「苦しみ」を和らげるための技術を開発し商品化してきました。
 では、私自身が学問的よりどころとしてきた社会学はどうでしょうか。私は一時期、この問いを自問し続け、答えを見いだせずにいたことがあります。そんな時に出会ったのが、社会構築主義という社会学のアプローチでした。端的に言えば、そのアプローチとは、様々な社会問題にかかわるアクターがそれぞれに構成する現実や、その現実から出発する実践・運動を丁寧に描き出す作業のことです。その作業によって、ある個人あるいは特定の集団が抱える「社会的苦しみ」を可視化することが可能になります。そして、その「社会的苦しみ」をめぐって誰がいかなる発言をして、いかなる行動を起こしているのかを明らかにすることができます。
 「社会的苦しみ」に対するそのような社会学のアプローチは、一見、「苦しみ」を直接的に軽減するには役に立たないと思われるかもしれません。しかし、「社会的苦しみ」を構成する現実はきわめて複雑に入り組んでいるのです。その複雑な現実を捉えようとする作業は、他の学問領域と連携し、「苦しみ」と向き合うために欠かすことのできないものとなるでしょう。あるいは、その複雑な現実を捉えたうえで、その「苦しみ」を緩和するために自ら実践・運動を展開するという選択肢もあるでしょう。
 「社会的苦しみ」と向き合う学問は、生きることを楽しむための学問と同じくらい大切だと思っています。皆さんと一緒に、そんな学びができたら幸いです。

プロフィール(経歴、趣味、等)

 高校生の頃は航空業界への就職を目指していました。大学3年生のときにオランダへ留学し、イスラーム圏からの移民・難民の背景を持つ友人・知人との出会いや交流の機会があり、今の研究テーマにつながる問題関心がうまれました。大学院に進み、研究を進めると同時にユネスコ本部でのインターンを経験するなかで、国際機関で教育や文化多様性について扱う仕事に関心を持ちました。博士後期課程修了後、ユネスコ日本政府代表部の専門調査員としてこれらの仕事に携わる機会を得ました。そのまま海外の実務の世界で働くことを考えていましたが、縁あって日本の大学に戻ることになり、研究者の道を歩むことになりました。

研究内容

 この20年間、移民・難民の背景を持つ子どもやその家庭の教育をめぐる課題に関する研究に従事してきました。研究のフィールドは主にヨーロッパ(とりわけオランダとベルギー)です。近年、集中的に取り組んでいる研究テーマとしては、以下の4点を挙げることができます。

・社会の文化的多様性を踏まえたセクシュアリティ教育に関する研究
・子どもの性暴力・性虐待を防ぐための教育社会学的研究及び実践
・ヨーロッパにおけるイスラーム教育の教育社会学的研究
・中等教育からの早期離学・中退に関する国際比較研究


●主要業績(4点)

MIHARA, Reiko, "School for their Own: Experiences of Ethnic and Religious Minorities in Japan and European Countries" (Chapter 5) , "Non-formal Education for Social Work in Faith-Based and Religious Organizations" (Chapter 7), in: MARUYAMA, Hideki ed. Cross-bordering Dynamics in Education and Lifelong Learning : A Perspective from Non-formal Education, Routledge, 2020.pp.76-91, pp.113-125.

アンデシュ・ニューマン他『性的虐待を犯した少年たち――ボーイズ・クリニックの治療記録』見原礼子訳,新評論,2020年.

見原礼子「ヨーロッパの公教育制度におけるイスラーム教育導入のプロセスと論点」伊達聖伸編『ヨーロッパの世俗と宗教――近世から現代まで』勁草書房,2020年,pp.177-191.

見原礼子『オランダとベルギーのイスラーム教育――公教育における宗教の多元性と対話』明石書店,2009年.

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