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ヨーロッパコース 教員

石井 香江(イシイ カエ)

石井 香江
英語表記 Kae ISHII
職名 教授
研究者情報 研究者データベース

学生へのメッセージ

 私の専門は今でこそ近現代のドイツと日本をフィールドにする歴史社会学ですが、高校時代には歴史には全くといってよいほど関心がなく、また法学や経済学は勉強する内容や方法が限られているのではないかと、現在を生きる自分と直結する問題を多方面から考えることのできる社会学を選びました。そして大学に入ってみると、社会学とは私が想像していた以上に面白く可能性に満ちた学問領域であることが分かりました。社会学とは現在の社会のありようをそのまま知るというだけでなく、なぜそうなのかという理由を考えるため、過去を振り返り、また、他地域との比較を必要とする学問でもあります。グローバル化する現代社会で、各地域の個別性は失われつつあるように見えますが、それでも長い間に形作られてきた個性はまだまだ残っています。私自身は、日本にずっといたのであれば見えていなかっただろうことが、ドイツに滞在することで見えるようになりました。例えば日本社会においては当たり前である生活スタイル、働き方、家庭や職場での性別役割分業が、ドイツでは決して自明ではないことを体感したのです。私たちが普段何気なくしている「比較」という行為は、自分や自分の住む地域や社会、国をよりよく理解する上で非常に重要な方法です。「比較」する習慣や力を身につける上で、海外での生活はまたとない貴重な機会で、私にとっては大きな財産となっています。
 近現代のヨーロッパ社会について理解を深めつつ、それらを「合わせ鏡」にして、日本社会について違った角度から見つめ直してみませんか? ドイツで生活し、ドイツの周辺を旅行し、友だちを作って学んだことで得られたものの見方を、今後グローバル社会に投げ出される若い皆さんに伝えていきたいと願っています。

プロフィール(経歴、趣味、等)

 物心ついた時から東京育ちです。大学院生までは国内の移動はほとんどなく、東京とドイツを行き来する生活を送っていました。就職して関西で生活するようになりました。高校生の時にベルリンの壁が崩壊し、人々の熱狂する様子が毎日テレビで報道されたせいか、中欧・東欧への関心がいっきに芽生えました。大学では第二外国語としてロシア語とドイツ語に希望を出し、クラスの少ないロシア語に外れてドイツ語クラスに割り振られることになりました。そのおかげといってはおかしいですが、ユニークなドイツ人教師たちと出会い、その後押しで大学の派遣留学制度とドイツ学術交流会の奨学金でドイツのフライブルクとシュタウフェンに短期留学をし、本腰を入れてドイツ社会について学ぼうと決心しました。大学四年時には一年間の予定で、『ベルリン・天使の詩』の舞台として憧れの地だったベルリンに派遣留学をしましたが、一年後には留学期間を延長するために現地でアルバイトを始めました。そんなこんなで二年後に初めて帰国すると、女子高生の間では「ルーズソックス」が流行り、同級生は私よりも若いながら、将来の目的意識の明確な就職氷河期世代で、まさに私は「浦島太郎」でした。とはいえ、前後する二つの世代の「はざま」を生きることになったおかげで、時代の大きな移り変わりを身をもって体験し、考えをめぐらす機会が得られたといえます。損得勘定を全くせず、四年時に留学した無謀な私でしたが、人生何が幸いするか分りません。
 趣味は旅行、ハイキング、映画鑑賞です。特にハンス・クリスチャン・シュミットやファティ・アーキンというドイツの若手監督たちのことが気になっています。この二人の『リヒター』(Lichter)と『愛より強く』(Gegen die Wand)は、私の心に深く突き刺さった稀有な作品でした。皆さんのお薦めの映画があれば是非教えて下さい。

研究内容

 留学先のベルリンで戦間期の時代状況をジェンダー・社会階層・人種という視角から見る面白さを知り、大学院に進学してからは、社会学のレンズを通して歴史を叙述するとはどういうことなのかを真剣に考えるようになりました。とりわけ強い関心を持ったのが、いかなる条件の下で社会の仕組みは変容するのかという社会学の古典的なテーマです。そこで私は、19世紀以降の日独社会において雑誌や情報通信技術などのメディアやテクノロジーが、ジェンダー秩序を固定させるだけではなく、むしろ変容させる上でどのような役割を果たしていたかについて、修士論文ではサブカルチャーや社会運動の結節点となった雑誌、博士論文では電信・電話技術に注目して考察してきました。現在では戦前は勿論戦後ドイツ社会にも目を向け、労働、技術革新とジェンダー秩序の変容について研究を進めています。色々手を伸ばしている印象を与えるでしょうが、変化のメカニズムをとらえようとする一点において、私の中では一貫しています。私自身は研究対象の持つ固有のダイナミズムに学び、狭い枠に自分を押し込めるべきでないと考えますが、私の専門をあえて分類するとすれば、近現代の日独社会に目を向ける、労働の歴史社会学、社会史・ジェンダー史となるでしょう。以下、主要業績です。

主要業績

  • 単著:『電話交換手はなぜ「女の仕事」になったのか:技術とジェンダーの日独比較社会史』(ミネルヴァ書房、2018年)
  • 共著: 『ベルリンのモダンガール:1920年代を駆け抜けた女たち』(三修社、2004年)
  • 翻訳:ミリアム・グラックスマン『「労働」の社会分析:時間・空間・ジェンダー』(法政大学出版局、2014年)
  • 翻訳:レギーナ・ミュールホイザー『戦場の性:独ソ戦下のドイツ兵と女性たち』(岩波書店、2015年)
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